朗読

  • f:id:ganoq:20140407142633j:plain
 
 

 写真は先日散策していた王子公園付近の風景。

 

 行きがけの電車の中、えらい大きな声で電話している人がいるなあ、と思ったら、なんと電話機を持っていなかった。

 ドア付近にいた私は、その大声で独り言をいう女性とほぼ差し向いの状態で特急電車の長い駅間を過ごすことになった。

 否応なしに内容が耳に入ってくるのだけど、ずっと内容は一緒だ。お金は諸悪の根源だ、と表現を変えて繰り返している。

 「このままでは私たちはお金に、悪に染められてしまいます」

 「自立しなければ・・・・私たちみんながしっかりしなくては」

 私が聞き耳を立てている気配を感知したのか、言葉に少し抑揚が付きトーンが高くなる。舞台俳優の独白シーンのようだ。

 「そうです・・・暗黒の世界が私たちを呑み込むのです」

 お金でどえらい苦労をしたのか、元々観念の世界の人なのかそれはわからないけど、この人には世界はそういう風に見えているのだなあ。

 

 それぞれの脳でとらえた別の世界を私たちは見ているのだろうけど、普段の暮らしの中でお互いの捉えたもののすり合わせに苦労することは実際には少ない。いつの間にか皆が同じものを見て同じものを感じているように思ってしまう。

 まるで違うものがあらわれた時、急に振り出しに戻ったかのように私は一瞬戸惑う。

 

 乗換の駅で女性が降りて行く頃には、語りにほぼ耳が慣れた。

 でも次の乗換駅で、その世界観を網棚に置き晒すようにさくっと忘れた。