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「じゅんで〜す」

 

 http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2037269.html?iref=comtop_list_andw_f01

 

 なぜだかはわからない。連休最終日の6日の夜、風呂に入っていて突然その人のことを思い出したのだった。

 

 それは、生まれ育った市にあるショッピングモールでの出来事だ。私はまだ化粧っ気のない十代で、その年短大に入学したばかり。売り場で目印の造花がつけられた商品の値札をひとつひとつ首っ引きで調べては必死の形相でメモしている。

 いったい何をしているのか?明日ここのモールのイベントでクイズ形式の懸賞が行われるのだ。

 指定された商品の合計額に一番近い値段を提示した人が当選する仕組みになっていた。

 数多くある賞品のなかの一つ、アイシャドウとチークなどが一揃い入った化粧品のフルセットが私はどうしても欲しかった。お化粧をしたかったが、小遣いをもらう習慣はなく、アルバイトもだめと申し渡されていた。それでもとにかく綺麗になりたかった。

 

 当日の司会はレツゴー三匹だ。

 化粧品セットに手を上げた客は私を含め2人いたが、必死の形相に気圧されたのか、いつもTVで「じゅんでーす」と言っているおっちゃんがこちらをじっと見て「どうぞ!」と私のほうを指してくれた。

 うれしかったなあ・・・もう片方の方には申し訳なかったけど、家に帰って何度も何度もふたを開けては閉めて喜びをかみ締めた。私が化粧をするのを嫌がる母にはあまりいい顔をされなかったけど、それでもこっそり、大きなコンパクトの内側の鏡に向かって練習することができた。

 

 というような記憶が、頭を洗っている最中にいきなり脳裏に浮かんだのだった。

 なつかしいなあ、そういえば昨年「半沢直樹」を見ていたとき、あれ?今のレツゴーのじゅんさんやんなあ?、と一緒に見ていた家族に話しかけたのだった。

 役どころは老いた孤独な父親で、出演者のクレジットを見ると芸名は「逢坂じゅん」となっていた。へえ、役者のときは違う芸名やねんな。

 そんなことを思い出しながらタオルで髪を拭いていた。

 

 我ながらよくそんな細かいことを覚えていたなと思いつつそれきりになっていたが、今朝の朝刊を見たら訃報が載っていた。よろず勘の鈍い私にもまれにそんなことがあるらしい。

 ご冥福をお祈りします。そしてあの時はありがとうございました。