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松田聖子

 

 それは、同世代人の思い出話の中に鮮やかな色彩を放ちながら紛れ込んでいる、時代の記号のようなアイドル。

 でも、あの頃の女の子はみんな彼女に憧れてた、とか、女の子のバイブルだった、とかと表現されると、個人的にはおいおいおいちょっと待った、と思う。

 

 人生のうちのほんの短い一時期を除いて、有名人に対して強い情動が湧くたちではなかった(※)ので、彼ら彼女らに関しては「割と好き」か「ちょっと苦手」の二つしかリアクションを持たないんだが、私ははっきり言って聖子ちゃんは「苦手」だった。あの独特の発声と息継ぎの仕方がどうも好きじゃなかったのだ。

 へそ曲がりな気質もあいまって、彼女のブームには一度も乗ることなく私の青春は終わったのだけど、世間で王道になってるもんには乗っかっといたほうが後々思い出すとき楽しいかもなあ、と思ったのはずっと後になってのことだ。

 

 しかしあの聖子カットを考えた人は天才だ。輪郭を自然にカバーして大概の子がかわいく見える。

 男の子でも当時のジャニーズタレントがしているようなセンター分けの髪形がはやっていたけど、間抜けに見えてあれは好きにはなれなかった。

 この頃美容院に置いてあったヘアスタイルブックはたいてい芸能人をモデルにしていて、どのページを見ても大差なかった。今見たら笑ってしまうかもしれない。

 

 そう、本人の話題に戻ると、去年だったか一昨年前だったか、TVのバラエティのゲストに呼ばれた彼女をたまたま見たら、年相応のかっこいい女の人になっていた。私の「苦手」感は、その気風のよさそうなしゃべりを聞いているうちにあらかた消え去ったのだった。 

 

 

 

 

※ ほんの短い一時期、とは、自分の才能や器量に諦めがついて諸々のことを断念するまでの、じたばたした一時期のこと。実際に接点のない人間をあれこれと羨望したのは後にも先にもこのときだけだ。