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狼の血族

 

 急に涼しくなった。庭では萩の花が今を盛りと咲いている。うっかり萩なんて植えてしまったけど、狭い庭なのでえらいことになっている(毎年秋にはそうなるが、実は心待ちにしている。)。

 

 そろそろシャワーでは肌寒いので、風呂釜の掃除をしてお湯をためる準備。

 物置から扇風機の空箱を出してきて、分解掃除して収納しなければ。

 着々と寒い季節に向かって暮らしは進む。

 

 音楽を聴きながら家のなかを片付けていると、若い頃友人と旅をした和歌山のビジネスホテルで、窓の隙間から夜中じゅう聞こえてきた蛙の声を不意に思い出す。私の記憶はどこからどこへつながっているのだろう、自分でも読めないことがある。

 

 夏だった。とにかく寝苦しかったのだ。安い宿でエアコンの効きは弱く、外の風を入れたほうがましだと窓を開けた。ベッドに横になったまま、硬貨を入れたら映るTVでぼんやりと映画を見ていた。

 なんだかホラーなのかファンタジーなのか渾然としてわからない映画で、タイトルがたしか「狼の血族」といった。何だかんだ言いながらラストまで見てしまったな。

 別段旅先でしなくてもいいような過ごし方でも、贅沢でなくても、何もかもが十分楽しかったのだ。20年以上が経ったある日の午後、その時聞こえた音や風の香りの記憶が不意に蘇る位には。

 

 そんなことを思い出しながら手を動かしていたら、扇風機3台は苦もなく片付いた。

 明日から新しい仕事場だ。何が待っているだろう。