強い風で窓がびゅうびゅう鳴っていたかと思えば凪のように黙る。晴れていい天気だが今日は一度もお外に出ていない。少しのどが痛いので静養中だ。
このところネットで極端なことを言ったりしたりする人を立て続けに見聞してちょっと辟易している。ネットでそういう人が悪目立ちするのは仕組みの上で避けられず、今に始まったことでもないのはわかるのだけど。
「口出しすべきではないことに口を突っ込む」または「自分の領分じゃないとこへ侵攻する」身近でもネットにおいても揉め事の起因の多くがこれだったりする。
今日は私の身近な人間が出会った奇妙な人の話をしようと思う。
その身近な人の名前をAとする。当時は専業主婦で幼い子供がおり、郊外の新興住宅地に一戸建てを購入して移り住んで間もないころの話だ。
周りも同時期に越してきた同年代の人ばかり。周りの人たちと仲良くやってゆけたらいいな、とポジティブに新生活をスタートさせて間もなく、向こうからぐいぐい距離を縮めてくるご近所さんがいた。この人をBとする。
Bはそのうち何かと理由をつけてはAの家に入り浸るようになる。
基本的に仲良くしてくれるスタンスの人はありがたいAも、晩御飯の時間になっても居座り続けるBに困るようになる。もう夫が帰ってくるから、もう子供をお風呂にいれるから、とそれとなく帰宅を促すが「私は大丈夫」と意に介さない。
もともと柔和で人がいいのと、分譲住宅地ゆえ、この先もずっとご近所で顔を突き合わせることを思うときつい表現をためらうAにはそれ以上の手立てがとれない。夫が勤め先から帰ってきてくれるとようやくBが重い腰を上げるのを見てようやくほっとする。そんな日々が続いた。
Aの夫は、ご近所さんとはいえよその人間が遅くまで家にいるのを見て不審には思うが、妻の交友関係だから口出しすべきではないのだろうと自分の意見は抑えていた。
長々と人の家に居座るBは、やがてAの生活に口出しをするようになる。
その内でも激烈な非難を浴びたのが、Aの親が孫の顔を見に訪ねてくる頻度だった。
隣市に住むAの親が、1ヶ月に1~2度ほどお土産や野菜を持って訪ねてくるのをBは良しとしなかった。
どちらも成人したいい年の親子が、こんなに頻繁に交流しているのはおかしい。あなたは親離れするべき、交流を断つべきと執拗に食い下がった。Aがなあなあで流そうとすると許さなかった。
BはAとA親の交流を禁じようと血相を変え、Aが従わない気配を見せると、あらかじめ根回しをすませた他のご近所住人を動員して無視や目くばせなどで圧力をかけた。Aは憔悴していった。
この不健全な支配不支配の関係があっけなく終わりを告げたのは、Aから経緯を聞いたA親が、嫌がらせの現場にちょうど居合わせて一喝したことによる。
近所の交流はなくなったが、夜遅くまで他人が不自然に上がりこむこともなくなった。
その後Aは子供の通う幼稚園のママさん同士で気の合う仲間を見つけて、今もそこで平穏に暮らしている。
その人はどうなったのと聞くと、働きに出るようになったみたいだけど続かないみたい、もう付き合いはないから詳しくはわからないけれど、とのことだった。
この話には後日談がある。
A親が懇意にして時々取り寄せている、ある地方名物の製造元からある日問い合わせが入った。
娘さん(つまりA)のお名前とご住所は最近変わられたのですか?と。
いいえ、何も変わっておりませんが何かありましたか?と訪ねると、(A親)の娘でございますとわざわざ名乗って挨拶をした上で注文を入れてきた人間の名前が、以前の注文で聞いたAとは違っていたため、確認を入れたほうがいいのでは、と判断したとのことだった。
Aは嫁いでいるのでA親とは違う名字を名乗っているが、嫁いで以来苗字はずっと同じだ。不審に思ったA親が、どういう名ですかと聞きだした名前はBのものだった。
そういえば以前に頼まれてお裾分けをしたことがあった。A親の身元や取寄せ先の情報はその時に控えていたのだろう。
A親は非常に気味悪く思い、こちらとは全く関係のない方です、と言って電話を切ったそうだが先方はかなり当惑していたそうだ。そりゃそうだよね。
Bという人はいったい何がしたかったのだろう。
メンタルの作りが単純な私にはさっぱりわからない。
勘の良い方はお気づきかも知れない。Aというのは私の妹で、A親とは私の両親である。