メメントモリ

 

 灰白色の背骨は余熱を放ちながら、小さな山脈のように横たわっていた。

 

 真ん中の台に置かれた骨箱は湯呑のように小さい。

 故人は頑健なひとだった。まず目に入ったのは背骨だが、腕の骨も足の骨ものびやかに目の前にある。

 疲れで頭がすこし麻痺している。ちゃんとおさまるのかな、足から順番に入れるんだっけ、と大昔に爺婆の骨上げに立ち会った時の記憶を呼び出してみる。

 

 斎場の係員さんはよくとおる声で挨拶をされると、焼きあがった骨の足の部分を指しながら解剖の授業のように説明をし始めた。そして部位の説明をし終わるや否や、骨壺に入れるため小さくします、と言いながら力をこめて骨をガッガッと砕き、人数分の小さな破片にして私たちに「どうぞ」とサジェストした。

 

 これが左の骨盤です。ガッガッ

 こちらが上腕、そして手と指の骨です。ガッガッガッ

 喉仏のターンでは詳細な説明が入る。

 

 足から頭まで、順番どおり私たちは骨を拾わせてもらい、故人は無事に骨箱におさまった。

 ガッガッガッガッと砕かれている最中、生前あんなにうるさかった人が「こらなにすんねん」とも何も言わない。

 本当にもういなくなってしまったんだな、と思った。