読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

合いの手

 

LINEってすごいなあ、と素直に思ったのだ。

名乗られてもにわかには思い出せない人から急に「お久しぶりでーす」とトークが飛んできた時にだ。10年前の職場の連絡簿に載っていた電話番号を控えていたらしい。こんなかそけき縁を今時の技術は探り出しつなぎ直すのだなあ、と()。

言われてみれば確かにそういう名前の知人はいた。ただ、私は自分が興味を持てない人はすぐ忘れてしまうのと、色んな職場を転々として来ているので余裕で半分以上思い出せないまま「お元気でしたか」などとありきたりな挨拶をした。

ここまではよくある話。

 

それからなぜか日常雑記めいた俺通信トークが飛んで来るようになって、私はちょっと困ってしまった。仕事で覚えなくてはいけないことも多く、忙しい生活を送っていたので返事をする間があまりない。

その上に、数日たつと忘れっぽい私もさすがに彼の行状と人となりを克明に思い出してきていたのでどうにも気が乗らないのだった。

 

彼の名を仮にP氏としよう。

P氏の行状とは「ひたすら女癖が悪い」

信じがたいが仕事場でやらかす。しかも複数人相手だ。特定されても面倒なので詳細や顛末は伏せておくけれど、

「こっちは必死で仕事してんのにずいぶん余裕こいてるな」と思ったものだ。おそらくそれが顔に出ていたので当時P氏は私を避けていた。

しかも既婚者で、ルックスは男前というよりはむしろ甲殻類寄りだ。

 

スルーし続けるのもなんとなく気が引けるが、興味のもてない話に付き合い続ける義理もないので「これからも元気で頑張ってください、では」的な返事をしてLINEのトークを打ち止めにしたが、なんのなんの「そんな寂しいこと言わないでよ~」「もっと話そうよ~」でP氏的には振出しに戻ってトークは続くよどこまでも。この時点でブロックしようかと思案し始める。

スマホに変えたけど使い方よくわからないから慣れるまで付き合ってほしいよ」とトークが来たこともある。私は携帯屋の店員じゃねえぞ。呆れながら、厚かましい人ってこういう発想をするんだな、と変な感心をしてしまう。

 

で、うんともすんとも返事をしないものだから内容は徐々に質問形式で「どう思う?」とか「どれがいい?」などの返事を要求するものに変わっていった。人に聞いて覚えた手練手管というより自然とそういう発想になるのだろう。もしかしたら20人くらいに同じ内容を送ってるのかも知れない。

 

そういった一方的なやりとりや当時の会話を思い出すにつけ、「これは会話じゃないよな」と私は思い始めていた。考えてみれば昔から会話は成立していない。こちらの話すことを向こうはなにも聞いていないし気にも留めていない。

P氏の一見相槌にみえるものは、あれは相槌ではなく「合いの手」だ。音頭の間に挟まる「ハア~ソレソレ」とか「サノヨイヨ~イ」とかと同じだ。

こちらが「忙しいので」と言おうが「さらば」と言おうが、風の音のように聞き流す。人のいう「押しの強い男」の押しの強さの内実とはたぶんその程度のことで、日常の中では内容がかみ合ってなくとも話を聞いていなくても「合いの手」としてリズムが合っているので、ノリだけで一見会話らしきものは成立してしまう。ただ酷くつまらない。

 

一昔前にある作家が、女に相手にされたければ女の話をまともに聞いてちゃいけない、などとエッセイに書いてたな、などと脈絡もなく思い出したクリスマスイブだった。

遅まきながらブロックも完了。

 

・・・久しぶりに上げたこの文が今年最後のエントリか。それもちょっと嫌だな。