時間どろぼうに遭う話

 

 ブログに全く手を付けずに半年ちかくが過ぎた。

 気が付くと余暇の時間のほとんどをingressに費やしていたのだった。

 一か月ほど前、伊勢丹のリニューアルオープンのようすを見に行こうとふと思い立ったが、家族の用事やタスクがある日を除いた自分の余暇において、そういうゆったりした過ごしかた自体が久しぶりであることに気がついた。

 

 歩き疲れて珈琲を頂きに入った丸福で、それでも(ingress専用にしている)2台目のスマホを取り出してスキャナを確認する。癖になっているのだ。あまりこういうのはよくないなと思った。せっかくの珈琲とケーキが味気なくつまらない。

 

 おかわりした珈琲をすすりながら考えた。

 私は元来ひとりでも退屈しないたちで、暇で困ったことがない。生活を彩ってくれたのは各種の端末弄りやバイクでの遠出、昼のささやかな一人飯、日記用に撮るスマホのへぼ写真などなど、それらの有象無象をこの半年間、私はあっさりと払いのけて顧みることがなかった。

 気がつくと部屋のなかは何となく雑然としている。玄関先の芳香剤も切れたままだ。

 

 以前も書いたことがあるが、そもそもの話から始めると、ゲームを始めるときに何気なく自分の好きな色のチームを選んだはいいが、住んでいるここでは超劣勢だったのだ。封殺されるという言葉がぴったりくる。朝も昼も、夜中だって容赦ない。人数も向こうが圧倒している上に、少しでも動けば領空侵犯時におけるスクランブル発進さながらにかけつける。やられようが毎度あまりに無惨なのがくやしくて、最短コースでLv8へレベルアップさせた。やめときゃいいのに。

 

 よくわんこ状態(わんことは、簡単にいうと一対一のバトル)になるためアイテムの補給も間に合わない。なので休日はいつもファームで何時間も粘っていた。

 夜中じゅう反撃してくる相手に律儀に応戦して気がつくと午前2時近くなっていたこともあった。

 以来懲りたので夜中は極力出ないことにしたのだが、それでも仕事の帰り道に少しだけと思ったら敵がいて長引いて家事に差し支えたり、家事を全部終えて寝る前に活動したら同じく長引いてなかなか就寝できず、というようなことが続いた。

 仕事も家事も削れない以上、睡眠時間を削って1日を回すことになり、3~5時間睡眠が当たり前になっていたが、あるとき仕事中の集中力が保てなくなっている自分に気がついて愕然としてしまった。

 息抜きのはずのもので仕事に差し支えていては意味がないではないか。

 珈琲を飲み終えたときに決めた。いちばん欲しいメダルを獲ったら、大幅にペースダウンしようと。

 

 そして昨日念願のMindControllerの金のメダルを獲って、同時にLv12となった。今日からは、ほかの楽しみや喜びをぼちぼちと呼び戻すことにしよう。

 ゲームを介したうっすらとした繋がりではあるけれども、知人が増えたのは珍しくも喜ばしいことだった。その知人の一人がハングアウトで私に言うには、遭遇した敵方と直接話した時にプレーヤーとしての私を怖がっていたと。

 信じがたかった。え?逆ならわかるけど冗談でしょ?

 このゲームはGoogleの大規模な社会実験だと聞いたことがある。その言葉がすとんと腑に落ちた。

 

 以上、私の中に住む厄介な時間どろぼうのお話。